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この女の人の、心の中を知りたい。
そんな思いで、絵を見に行ってきました。
ほぼ、分かりました。
国立トレチャコフ美術館展。
「忘れえぬロシア」
会場は、盛岡市にある岩手県立美術館。
展示作品数、75。
ロシアには、二つ大きな美術館があります。
エルミタージュ美術館(サンクトペテルブルグ)と国立トレチャコフ美術館です。
モスクワにあるトレチャコフ美術館は、10万点以上の作品を所蔵し、年間133万人が訪れるそうです。
その中で、絶大な人気を誇っているのが、この「忘れえぬ女(ひと)」です。
ロシアのモナリザとも呼ばれています。
会場は幾つかの部屋に分かれており、メインの部屋の奥の真ん中に、この絵はありました。 大きな存在感をもって輝いて見えました。
作者は、イワン・クラムスコイ。 1883年の作品。 油彩。 大きさは、75.5×99.0。
この写真の色合いは、原画とほぼ同じです。
この表情です。
初め、絵の左側に立って見ました。 しばらくして、右側に絵を見ながら移動してみました。 彼女の視線は、私を追いました。
傲慢な表情だという意見があるが、そうは見えません。
この絵が描かれた場所は、サンクトペテルブルグ。(昔のレニングラード)
冬の冷たい朝靄(もや)の中を、馬車でネフスキー大通りを通った時、クラムスコイと視線が合いました。
着飾ったこの女性(麗人)が誰かは、分かっていません。 クラムスコイは記録を残しませんでした。 今も、伝説に包まれています。
この絵の原題は、「見知らぬ女(UNKNOWN LADY)」です。
会場には、ほぼ2時間半いましたが、そのうちの2時間は、この絵の前にいました。 説明をメモしたり、絵を見て感じたことや気づいたことを小さなノートに書き続けました。 また、音声の説明が聞けるのを、首から下げ、イヤホンで聴いていました。
※ 大きくなります。
絵について気づいたことは。
① 帽子の飾りにある、真珠のような二つのものが、実物では写真以上に輝いていました。それは、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」の、真珠のような存在感でした。 その絵はここに。
② 頬(ほほ)と顎に、うっすらと、紅が入っていました。
③ 唇に、つやを出している。(このような化粧品が、ありますね)
④ 服装は、黒で統一している。 ただ、髪は黒でなく、少し焦げ茶っぽい。 写真でも分かります。 朝靄でバックの家が霞んだのは、その黒を引き立たせるには、ちょうど良かった。 (引き立たせるために、朝靄にした)
⑤ 黒いリボンが胸に掛かり、とてもいいアクセントになっている。 体つきを豊かな感じにしている。
⑥ この馬車は、幌を上げた状態。
⑦ 手の状態がはっきりしない。 毛皮の手袋を浅くはいているのか。
⑧ 単純に、つんとした感じではなく、誇り高い感じに見える。
⑨ 近づくに従って、目の表情がはっきりするため、心の中の想像がしやすくなった。
⑩ 耳は、下の写真より色が白く、薄く感じる繊細な耳。
⑪ 耳の前の髪は、小さくカールしていますね。
⑫ 髪は後でまとめていると考えていいでしょうか。
⑬ 頬から顎にかけては、ふっくらとしており、小野小町と共通のものを感じた。
⑭ 誘惑の視線とも言われているが、そうも見えるし、そうでなくも見える。
⑮ 目を至近距離でみると、潤いがある。
⑯ 保存状態がとてもよく、近づいても、ひび割れは全くない。
誇り高い、端正な顔立ちです。
※ 右から見たら右を、左から見たら左を見ますよ。
本題に入ります。 心の中についてです。
まず、クラムスコイはどんな人間だったかです。
説明に、こうありました。
サンクトペテルブルグには、美術アカデミーという組織があった。 約束事や厳格な行動基準があって、彼はそれに反発した。 アカデミーを脱退した。 彼は、常に民衆の立場に立ち、民主的理想を胸に、リアリズムを追求した。
この作品を描いた1883年は、ロマノフ王朝の時代。 30数年後、1917年のロシア革命で王朝時代は終わりをつげる。 そういう時代。
そして、こうありました。(想像で)
彼は、社会の中での女性の平等といった、来るべき新しいロシア社会の到来を見据えていたのでしょう。 それは、忘れかけていた人間の誇りだったかもしれません、と。
説明は、ここまででしたが、これで分かりました。
この女性の、尊厳と誇りに満ちた表情は、クラムスコイのアカデミーに対するものでした。 また、その時代の社会、つまりロマノフ王朝に対するものでもありました。 個人の自由や尊厳が抑圧された時代であり社会でした。
彼は、女性の美を借りて、自分の意志を表現していました。
それは、クラムスコイが、一番描きたかったものでした。 また、描かなければならないと考えていたものでした。 考え方によっては、この絵は、クラムスコイの自画像と言ってもいいかもしれません。
これは、本物の自画像。 何かを思っている目ですね。
映画のパピヨンの中で、命をかけて自由を求めた、スティーブ・マックイーンの目と同じですよ。 ※ここに。
権力や社会の矛盾に対して挑戦する目です。 もちろん、鋭く見抜いて。
クラムスコイは、絵の中の女性を知っていたのか、という問題です。
想像ですが、知っていたと思いますね。
この人の考え(思想)も知っていた。
その日、通ることも。
これだけの服装をしているから、上流階級です。
でも、そういう人の中にも、今の社会に矛盾を感じてる人は、います。
その女性は、クラムスコイを見て、何らかの表情をし、気持ちを伝えたと思います。 それは、私もあなたの考えと同じですよ、かもしれない。
クラムスコイは、女性の表情に、自分の心の中の表情を重ね、この絵を生み出したと考えます。
絵の題名は、彼はその女性を知っていたし自分を重ねていたから、反対の「UNKNOWN LADY(見知らぬ女)」にしました。 知っていたから、記録に残さなかった。 そう思います。
※追記 別の考えです。 もしかしたら、この二人は、綿密な打ち合わせをしていた可能性がある。モデルを彼女にお願いした。馬車に乗っている姿は、別の場所でも描ける。服装も表情も要求したかも知れない。望む表情は分かっているし、彼女の内面を知っているから、彼女がそういう表情を作れことも知っている。 外に対して、そのようにして描いたとは言えない。見知らぬ女にすれば、一瞬を捉えて描いたことになる。 どうでしょう。この可能性はありますよ。彼女の身なりが、あまりにも完璧なので、そう思いました。 考えすぎでしょうか。
今日は、この絵の女性の心の中が、何とか見当がつきました。 想像の部分が多いですが。
女性の美しさには、男にはない、大きな力を持っているように感じました。
いい絵を見ました。
これは、トルストイを描いたもの。
この女性の心の中も、いろいろ想像できますよ。
クラムスコイの絵には、そういうものが多いと、説明にありました。
「忘れえぬ女」の、絵の前から去るとき、最後に、2メートルほど離れて正面から彼女の目を見つめました。 彼女もこっちを見ます。 私は、クラクラッとなって、後に倒れそうになりました。(笑)
何時か、また見る機会があれば、もう一度見たいと思います。
【今日の道の駅】 にしね 場所は、ここ。
【明日の予定】 北に行こうと。 明日は、のんびりするかな。
《今日の歌》 モスクワ郊外の夕べ(YouTube)
コロブチカ(YouTube) いつものとは、違うのを。
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